さちこのどんぐり
「さあて、そろそろ行こうか」
しゃがんでいた浩二が立ち上がる。

小学校の5年生くらいまでは同じくらいの背丈だったのに
お互い中学生になったあたりから浩二は急に背が高くなって
いまでは結衣より20センチくらい上に顔がある。

いつもカバンを肩越しに持って
つま先を外側に出しながら
少しガニマタっぽく歩く。
それでいて元関西人だからか歩くのが早い。

一緒に歩いてると、
結衣はいつも後ろから追いかけるみたいに歩いた。

結衣が後ろから「待ってよー」って声をかけると浩二は振り返って
いつもの笑顔で「あ、ごめん」って言ってくれる。

結衣は、それが大好きだった。




そういえば…

「ねえ…」

結衣には少し前から気になっていることがあった。

「ねえ、聞いてる?」
返事をしない浩二に苛立って、もう一度大きい声で聞く。

「何?聞いてるから、言えや」

浩二は面倒臭そうに、そう答えた。

結衣は気になっている浩二の不思議な行動について

「いつも帰りにバイバイするときカバン叩いたり、傘持ってるときは
傘でカン・カン…って鳴らすよね?あれ何?」

結衣がそう尋ねると浩二が

「なんだ、知らないの?」

「知らないよ~そんなの聞いたこともない」

「カン・カンじゃなくて、五回鳴らしてんだ。
『ア・イ・シ・テ・ル』って…」

「……………」

照れ臭くて、恥ずかしくて、嬉しくて
病院までの道を結衣は何も言えず黙って歩いた。

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