彼岸の杜
中には入らずにそのまま立ち尽くすのであたしも動けずそっと清二さんの顔を見上げてみる。月明かりも相まって幻想的で美しいけどやっぱり儚く見えてしまう。それは心情的な要因もあるんだろうけど不安だ。茜だけじゃなくて清二さんもいなくなってしまいそう。
「朱里さん、彼女…紅は最後に、どんな表情をしていたのか聞いてもいいかい」
ふわりとあたしと清二さんの間に冷たい風が吹く。消えてしまいそうな清二さんの声がその風でしっかりあたしの元まで届いた。
「笑って、ました…あたしのことが大好きだよって…」
いつものように穏やかに優しく、慈愛に満ちた表情で。
そう伝えると清二さんは「そっか」と呟いたけどその声は震えているように聞こえてあたしも引っ込んだはずの涙が出てきそうになって唇を噛みしめた。
どれぐらい2人でそうしていたのか。くしゅんっとあたしには珍しいほどのかわいらしいくしゃみにお互いこの寒さに今さら気づいてほんの少しだけ笑ってしまった。
「中に入ろうか」
「ですね。そういえば清二さん、それってなんだったんですか?」
茜から清二さんにって最後にお願いされた巾着。ずっと握っていたからわかった。あの巾着の中には何かが入っているってこと。
感触的には石っぽかったけどさ、ただの石を持ってるっていうのもおかしい話だよね。それともお守りにしている石だったりしたのかな。