強引社長の甘い罠
 良平の好意は純粋に仲良しのイトコを心配したものだ。兄妹のように育った私たちだから。私も良平には遠慮なんてしない。だからこれは遠慮したわけじゃなく、都合が悪かったから。

「いい、いい! 一人で大丈夫だから! 良平にわざわざ来てもらうほどのことじゃないから!」

『なに焦ってんだよ』

「焦ってなんか……」

『ふ~ん……俺が行くとなにか困ることでもあるわけ?』

「そんなことあるわけないよ。そんなんじゃないって。私はもう平気だし、だから……」

 私が良平相手に必死に説明していると、ふいに横から腕が伸びてきた。持っていたスマホを取り上げられる。ハッと気づいて見上げると、無表情な祥吾がいて、彼は私のスマホを耳に当てた。そして急にその顔にニヤリと意地の悪い笑みを貼り付けた。

「彼女の面倒は僕が見ているからご安心を」

 それだけ言うと、祥吾は私にスマホを返す。ついさっき、彼の顔に浮かんでいた笑みは跡形もなく消え去り、なんの感情も読めなくなっていた。

 私は呆然としたまま、差し出されたスマホを黙って受け取った。祥吾はそのままくるりを背を向けると静かに寝室を出ていく。私はしばらく祥吾が消えたドアの向こうをジッと見つめたままだった。
 スマホから良平が何か言っているのが耳に届いて、我に返った私は慌ててそれを耳に当てた。

『……だろ。おい、聞いているのか?』

「良平?」

 電話の相手が再び私に戻ったことで、噛み付くように話していた良平の声が幾分柔らかくなった。

『ああ、唯か……。おい、さっきの失礼な男は何なんだ? まさか恋人か?』

 だけどそれは最初だけで、すぐにまた責めるような口調になっていた。まったくもう。まだ体は完全に回復したわけじゃないのに、どうしてこんな面倒なことになるの? うんざりしながら天井を仰ぐと、私はスマホを持ったままベッドに戻り腰を下ろした。

「まさか、違うわよ。今のは……えっと……」
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