強引社長の甘い罠
 今朝、私のアパートに来たときからずっと、彼はスーツを着ていたけれど、どうやら着替えたらしい。ダメージ加工が施されたブラックジーンズに白い半袖のTシャツという、いたって普通の格好なのに、彼が着るとどうしてこんなに洗練された服に変わるの?

「唯……」

祥吾がもう一度私の名前を呟いた。とても警戒した声だ。

「その写真……まだ持っててくれたんだ」

 “持っていてくれたことが嬉しい”そんなニュアンスをこめて私は言った。祥吾が目を見開いた。驚いている。私がどんな反応を示すか恐れていたみたい。

「……ああ」

 小さな低い声で、うなるように祥吾が返事をした。
 いったん足元に落とした視線を再び持ち上げると、祥吾は私を見つめた。大きく開いた右手で無造作に髪をかき上げる。少し苛立っているようだ。何か言いたいことがあるのか、口を少し開いては閉じ、開いては閉じてを数回繰り返した後、彼は大きな溜息をついた。

「安心しろ、君が思っているようなことじゃない」

 吐き捨てるように言った。

「あ……」
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