強引社長の甘い罠
 頬が熱を帯びた。私はがっかりすると同時に恥ずかしくなった。勘違いもいいところ。どれだけ自分はおめでたい人間なの? 祥吾が私の写真を今も持っていて、それを見ていたことに、私は少なからず期待した。こうして風邪を引いた私の面倒をみて、自分のマンションに連れ帰ってくれたことも、私が期待した理由のひとつだ。

 彼が今も私の写真を持っていることは、私が思っているようなことじゃない。そうよね、そうに決まっている。この写真について、私が何を考えたかを彼は分かっていて、敢えてそう警告したのだ。これ以上私が勘違いをしないように、釘を刺した。

「……そうね。分かってる。それを聞いて安心した」

 声が震えないように頑張った。思い違いをした自分を恥じていることを悟られないように、何でもない振りをする。

「えっと……、もうだいぶよくなったから、帰る前にお礼を言いにきたの」

 祥吾が眉を上げた。険しい表情で私を睨む。

「帰るだって?」

「ええ」

 本当は帰るつもりなどなかった。ずうずうしくも明日の朝まで泊まらせてもらう気でいた。祥吾のベッドから抜け出したのは、お腹が空いたからだった。

「風邪が治ったら帰るつもりだったの」

「治ってなんかいない」
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