強引社長の甘い罠
 さっきより厳しい口調だった。信じられないと言うように呆れた顔をする。自分がものすごく愚かな人間に思えてきた。

「完全に治ったとはいえないかもしれないけど、それでも明日の朝までにはよくなるわ。明日は出勤するつもりだし、どちらにしても帰らないと着ていく服がないもの」

 私は自分が今着ている服、祥吾に借りたブカブカのTシャツと、裾を何度も折り曲げたスウェットパンツを見下ろして肩をすくめてみせた。

「それなら明日、会社へ行く前にアパートに寄ればいいだろう。俺が車で送っていく。もちろん最初からそうするつもりだった。それぐらい何でもないことだ」

 祥吾はなかなか納得しない。本当に頑固。急に腹が立ってきた。

「そう? そんな親切にされたら女の子はそれこそ勘違いしちゃうんじゃない? いったい何人の女性にそうして思わせぶりな態度をとってきたの?」

 祥吾の顔がさらに険しくなった。こめかみのあたりの血管がピクピク動いているのが見てとれるようだ。実際には無造作に散らばった髪に隠れて見えないけれど。

「誰にもそんなことはしていない。ああ、本当に……君には本当に腹が立つよ」

 その言葉を実証するかのように、彼は苛立った様子で何度も乱暴に髪をかき上げた。どうやら本当に――それもかなり――怒っているらしい。でもそれは、私も同じ。
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