強引社長の甘い罠
 私は思わず言った。そう、本当に“思わず”言ってしまった。

「そうね。それについては反論しない。でも、私は勘違いをしちゃったわ。祥吾はそんなつもりじゃなかったとしても、私は違う。あなたが私の写真をまだ持っていて、そしてそれを見ていたことが嬉しかった。あなたはずっと私を忘れていなかったって知って、嬉しかった。もしかしたら私のことをまだ好きでいてくれてるのかも、って見当違いのことを考えた。誰にも思わせぶりな態度を取ってないって言うけど、現に私は勘違いをしたわ! 笑えるでしょ?」

 一気にそれだけ言ってから、私は荒い息を繰り返し肩を上下させた。そしてすぐに後悔した。ああ、私はいったい何を口走ってしまったの?

 祥吾をチラリと見上げた。青い瞳は見開かれ、顔面蒼白だ。私よりも彼がショックを受けているみたい。
 ……帰ろう。タクシーを呼んでもいいから、とにかく帰ろう。これ以上ここにいて、みじめな思いをしたくない。私はクルリと向きを変えた。

 が、次の瞬間、全身があたたかいもので包まれた。

「行くな……」

 背後から祥吾の搾り出すような声が聞こえた。
 祥吾が私を後ろから抱きしめている。私の胸のあたりに回した両腕を引き寄せ、耳元で懇願するようにもう一度言った。

「行くな……唯」

「祥吾……?」

 私の体に回された彼の腕の力が強くなる。苦しいくらいに強く抱きしめられ、私は息もつけなくなった。
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