強引社長の甘い罠

「祥吾……苦しい……」

　わずかに抗議すると、彼はハッと気づいたようにすぐに腕の力を緩めた。私はゆっくりと体の向きを変えると、間近で祥吾を見上げた。

「あの……」

　予想外の展開にどう反応していいのか分からない。それは彼も同じようだ。それでも、彼の方が状況を理解しているらしい。ジッと私を見下ろしたあと、罰が悪そうに一瞬目を伏せ、そしてまた私を見た。

「君は正しいよ。本当は勘違いなんかじゃない。唯、君に対しては……君が思っているとおりだ……」

「祥吾……？」

　祥吾が正面から私を抱き寄せた。彼の匂いにつつまれる。懐かしい、この香り。彼の固く引き締まった胸板と、力強い腕を感じる。
　私はＴシャツごしに彼の胸に頬をすり寄せた。トクントクンと、規則正しい彼の鼓動が私の心を落ち着かせていく。ああ……私は彼が好き。祥吾と出会ってしまったあの夜から、私は彼だけを求めていた。彼に捨てられ離れてからも、自分を誤魔化しきれなかったのは、彼への恋情から。彼を憎んで、諦めようと努力しても無駄だったのは、私が彼を愛しているから。どうしようもなく、愛してしまったから。

　祥吾の広い背中に腕を回して抱きついた。ギュッと力を込めて彼に縋ると、私の背中に回っている彼の腕にも力が込められた。

「君が好きなんだ、唯……。ここにいてくれ。頼むから……」

　祥吾が懇願するように呟く。
　まるで時間の流れが止まったかのよう。私の思考も一瞬停止したみたい。彼の言葉を処理できなくて、私の頭が何度も彼の言葉を繰り返す。

　私が好き？　祥吾が私を好き？　彼は私にここにいて欲しいと言った。聞き間違いなんかじゃ、ないよね？　その証拠に、彼は今も私をきつく抱きしめている。私が逃げるのを全力で阻止するとでもいうように。