強引社長の甘い罠
 祥吾は黒いパジャマのズボンをしっかり履いていた。上半身は裸だけれど、下半身だけでもきちんと衣服を身に着けてくれていたことに、私は安堵した。だって彼は、昔私とつきあっていたときは、眠るときに服を着ていないことが多かったから。

 私が安心してホッと息を吐いているのが分かったのだろう。祥吾の瞳がいじわるな光を放った。
 完全に上体を起こした彼は、両手を私の顔の両側につくとその腕で体重を支えながら私に顔を近付けてくる。唇と唇が今にも触れそうな距離までくると、そのまま私の左耳へと唇を滑らせた。

「安心するな。夕べ、俺が唯に手を出さなかったのは、病み上がりだったからだ。さっきも言っただろう? 君が元気なら我慢する必要がないって。俺は今すぐでも構わないよ。とりわけ男はそういうふうにできている」

 彼の寝起きで少し掠れた低い声が、楽しそうな響きを持って私の耳にかかる。ゾクリと肌が粟立つと同時に、祥吾はさらに体を押し付けてきた。

 私の頬が急激に熱くなっていくのが分かる。きっと真っ赤になっているだろう。だって、祥吾が私に知らしめようとしていることが、分かってしまったから。
 彼は……準備万端だった。彼が言うように、今すぐ、愛を確かめることができそう……。

「でも、会社に行かなくちゃ」

 冷静に言葉を発したつもりなのに、やけに早口になってしまった。

「まだ充分時間がある」

「私、家に帰って着替えたいの」

「もちろん送っていくよ」

「化粧にも時間がかかるの。だから……」

「はあ……」
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