強引社長の甘い罠
 私の耳元で彼が大きな溜息をついた。そのままゴロンと私の隣に寝転がる。目を瞑るともう眠ってしまったかのように動かなくなった。
 もしかして、拒んだことで気を悪くしてしまった? そんなつもりじゃなかったのに。ただ、恥ずかしかっただけ。祥吾にとってはそうじゃないかもしれないけど、私にとっては初めて祥吾に抱かれる気分。いや、もしかしたら、昔を知っているだけに、初めてよりも恥ずかしいかもしれない。しかも今は朝で、充分に明るいのだ。

「祥吾……?」

 体を起こしてそっと彼を窺った。彼は目を瞑ったままだ。

「ごめんなさい、そんなつもりじゃなかったの」

 遠慮がちに彼の胸に頬をすり寄せて甘えてみた。彼の鼓動が聞こえる。振り払われることはないと分かって、私は安堵の溜息を漏らした。

「あなたが好きよ、祥吾。だけど、えっと、恥ずかしかったの。あれから何年も経って、私も昔とは違うし……。あの頃はまだ若かったけど、今は……」

 その途端、急に体が反転した。背中に柔らかいマットレスの感触がして、私の両手は顔の両側で彼の手に拘束されていた。

「馬鹿なことを考えてるようだが、君は今も変わらずキレイだよ、唯」

 祥吾の深いブルーの瞳が私を覗き込む。優しさと愛情を湛えた眼差しで、私を最高に幸せな気分にしてくれる。

「祥吾……」
< 123 / 295 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop