強引社長の甘い罠
 意識せずとも小声になってしまったけれど、ちゃんと聞こえていたようだ。電話の向こうで祥吾が機嫌よく言った。

『じゃあ仕事が終わったら俺の車のところで待っててくれないか? 停めてある場所は分かるだろう?』

「分かるけど……」

『デートしよう』

 デート! 途端に気分が浮き足立った。祥吾がそんなことを言うなんて驚きだ。自然と頬が緩んで締まりのない顔になる。背を丸めると隠れるようにして小声のまま返事をした。

「うん、分かった」

『じゃあ後で』

「うん」

 受話器を置く。鼓動が激しく私の耳で直に鳴っているみたい。だって、デートだ。祥吾とデート。彼の口からそんな言葉が出てくるなんて思いもしなかった。
 にやけた顔を抑えることができないまましばらく仕事をしていると鈴木課長が戻ってきた。私のだらしなく緩んでいるに違いない顔を見て、課長も顔を綻ばせる。

「何かいいことでもあった?」

「あ、分かります?」

「分かるわよ。そんなにニヤニヤしてたら」
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