強引社長の甘い罠
 松尾さんのからかうような口調に、祥吾の表情も幾分柔らかくなった気がした。
 すぐに運ばれてきたお好み焼きの生地と野菜をかき混ぜ、鉄板の上にキレイな三つの丸い塊を作っていく祥吾の手先を見つめながら、私はチラチラと彼の表情も窺っていた。

 彼は何でもできる。昔、私とつきあっていた時から、料理はひととおり出来たし、掃除も洗濯も完璧だった。女の私が恥ずかしくなるくらいだ。私も頑張って料理を作ったりもしたけど、とうてい彼には及ばなかった。それでも祥吾は私の焦げたハンバーグも、茹で過ぎてクタクタになったパスタも、美味しそうに食べてくれていた。

「せっかくの食事の席でごめんなさい。実は、祥吾は私がモデルを引き受けたことで怒っているんです」

「モデル?」

「ええ。ちょっと事情があって、Webサイトで使うエステのモデルをすることになったんですけど、彼が私には無理だって大反対なんです」

「あー、なるほどね。そんな事情があったわけね」

「はい。私は頑張るつもりなんですけど、祥吾が言うには私が彼の気持ちを考えていないって……」

 説明しながら、やたらとニヤニヤしている松尾さんが気になった。楽しそうというよりは、からかいを含んだ意地悪そうな笑みだ。眉をひそめた。

「私が言ってることって、変ですか?」

「いいや、全然。なあ、祥吾?」

 祥吾に同意を求めるようにしながら、松尾さんは祥吾の返事を待たなかった。

「でも、俺が祥吾だったら、同じことを言うと思うな。だから唯ちゃんには悪いけど、今日はちょっと祥吾に同情するよ」

「……そう、ですか」

 意外な返答に言葉が詰まった。私には祥吾が怒っている理由が分からない。けれど松尾さんは分かるという。松尾さんも、私にモデルは無理だと思っているということ? それとも男の心理ってやつ? うーん……。
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