強引社長の甘い罠
曖昧な返事をしながら、首を傾げる。随分と仕事熱心だと思った。たった一度、診察した患者をそこまで気にかけるもの? ああ、そうか。彼は祥吾の友人だから、そのせいで私のことも気にかけてくれていたのかもしれない。
ちらと隣と見ると、祥吾の機嫌はまだ直っていなさそうだった。しかめ面をしたまま、気のすすまない様子でいる。そんなに怒ってるならデートなんて中止にすればよかったのに。
「コイツは俺の大学からの友人で松尾裕司。彼女は……」
「もちろん知ってるよ。祥吾の恋人の唯ちゃん、だろ?」
祥吾が私たちを紹介しようとしたとき、松尾さんがにっこり笑って意味ありげな視線を祥吾に向けた。祥吾は相変わらず怖い顔をしたままむっつりと押し黙っている。そのままグイとビールを煽った。
すぐに先ほどの女性店員がやってきて松尾さんも生中を注文した。祥吾はミックスのお好み焼きを3つ注文している。
どうやら祥吾が言っていた友人というのは、松尾さんのことらしい。佐伯さんじゃないと分かって、私は少しホッとしていた。急に肩の力が抜けた感じ。目の前でおいしそうにビールジョッキに口をつけている松尾さんを見て聞いた。
「あの病院は松尾さんの病院なんですか?」
祥吾が怖い顔で黙ったままだったのが気詰まりで私が他愛ない話題を振ると、彼はやっぱり人懐こい笑顔で答えてくれた。
「ああ、うん。祖父の病院を継いだんだ。古くてビックリしただろう? あれでも何度か改装はしてるんだけれどね」
「いえ、清潔な印象の病院でしたよ。お祖父様の病院ということは、今はお父様と一緒に経営されてるんですね」
てっきりそうなのだろうと思って口にした言葉に、松尾さんが急に表情を曇らせた。もしかして、何かマズイことでも言ってしまったのだろうか。不安になって眉根を寄せると、次の瞬間にはやっぱり彼は笑顔だった。
「いや、父は医者じゃないんだ。もともと父は僕が祖父を継いで医者になることにも反対していたからね」
「え……、あ……そう、だったんですか。何だか……変なこと聞いてしまったみたいで、ごめんなさい……」
「いや、問題ないよ。別にこれと言って話す機会がないだけで隠しているわけでもないしね」
何か事情がありそうだ。初対面の私なんかに家庭の突っ込んだ話まで聞かれるのはいい気分じゃないだろう。私が項垂れると祥吾が付け加えた。
「裕司の父親は警視庁の副総監なんだよ。息子にも自分と同じ道を歩いて欲しかったんだろうな。まあでも、裕司が大学進学で医学部を受験したときにはもう諦めてただろうし、それから十年以上経ってるんだ。今さらどうこうって話でもないだろ」
「そういうこと。だから気にしないで?」
松尾さんが私に優しい笑みを向けた。私も少し安心して微笑む。
「はい」
頷くと彼も安心したようだった。
それにしても警視庁の副総監だなんて超エリートだ。松尾さんも、彼のお祖父様だって医者だし、すごく優秀な家庭なんだと思うと圧倒されてしまう。祥吾だって家庭には恵まれなかったかもしれないけれど、とても優秀なのは知っている。現に彼はこうして自分の会社をいくつも持っているわけだし……。私は極めて凡人なのに、私の周りの人たちはどうしてこうも非の打ち所がないのだろう。
私が二人をまじまじと見て、それから自分と比べて溜息をついたところで松尾さんが楽しげに私を見て言った。
「それで、どうして二人は喧嘩をしているの?」
「え?」
松尾さんは相変わらずニコニコと笑っている。
「喧嘩なんかしていない」
反対に、祥吾の機嫌の悪さは隠しようもなかった。
「そう? 俺が来たとき、二人は言い合っていたし、祥吾はとても怖い顔をしている。せっかくの色男が台無しだ」
ちらと隣と見ると、祥吾の機嫌はまだ直っていなさそうだった。しかめ面をしたまま、気のすすまない様子でいる。そんなに怒ってるならデートなんて中止にすればよかったのに。
「コイツは俺の大学からの友人で松尾裕司。彼女は……」
「もちろん知ってるよ。祥吾の恋人の唯ちゃん、だろ?」
祥吾が私たちを紹介しようとしたとき、松尾さんがにっこり笑って意味ありげな視線を祥吾に向けた。祥吾は相変わらず怖い顔をしたままむっつりと押し黙っている。そのままグイとビールを煽った。
すぐに先ほどの女性店員がやってきて松尾さんも生中を注文した。祥吾はミックスのお好み焼きを3つ注文している。
どうやら祥吾が言っていた友人というのは、松尾さんのことらしい。佐伯さんじゃないと分かって、私は少しホッとしていた。急に肩の力が抜けた感じ。目の前でおいしそうにビールジョッキに口をつけている松尾さんを見て聞いた。
「あの病院は松尾さんの病院なんですか?」
祥吾が怖い顔で黙ったままだったのが気詰まりで私が他愛ない話題を振ると、彼はやっぱり人懐こい笑顔で答えてくれた。
「ああ、うん。祖父の病院を継いだんだ。古くてビックリしただろう? あれでも何度か改装はしてるんだけれどね」
「いえ、清潔な印象の病院でしたよ。お祖父様の病院ということは、今はお父様と一緒に経営されてるんですね」
てっきりそうなのだろうと思って口にした言葉に、松尾さんが急に表情を曇らせた。もしかして、何かマズイことでも言ってしまったのだろうか。不安になって眉根を寄せると、次の瞬間にはやっぱり彼は笑顔だった。
「いや、父は医者じゃないんだ。もともと父は僕が祖父を継いで医者になることにも反対していたからね」
「え……、あ……そう、だったんですか。何だか……変なこと聞いてしまったみたいで、ごめんなさい……」
「いや、問題ないよ。別にこれと言って話す機会がないだけで隠しているわけでもないしね」
何か事情がありそうだ。初対面の私なんかに家庭の突っ込んだ話まで聞かれるのはいい気分じゃないだろう。私が項垂れると祥吾が付け加えた。
「裕司の父親は警視庁の副総監なんだよ。息子にも自分と同じ道を歩いて欲しかったんだろうな。まあでも、裕司が大学進学で医学部を受験したときにはもう諦めてただろうし、それから十年以上経ってるんだ。今さらどうこうって話でもないだろ」
「そういうこと。だから気にしないで?」
松尾さんが私に優しい笑みを向けた。私も少し安心して微笑む。
「はい」
頷くと彼も安心したようだった。
それにしても警視庁の副総監だなんて超エリートだ。松尾さんも、彼のお祖父様だって医者だし、すごく優秀な家庭なんだと思うと圧倒されてしまう。祥吾だって家庭には恵まれなかったかもしれないけれど、とても優秀なのは知っている。現に彼はこうして自分の会社をいくつも持っているわけだし……。私は極めて凡人なのに、私の周りの人たちはどうしてこうも非の打ち所がないのだろう。
私が二人をまじまじと見て、それから自分と比べて溜息をついたところで松尾さんが楽しげに私を見て言った。
「それで、どうして二人は喧嘩をしているの?」
「え?」
松尾さんは相変わらずニコニコと笑っている。
「喧嘩なんかしていない」
反対に、祥吾の機嫌の悪さは隠しようもなかった。
「そう? 俺が来たとき、二人は言い合っていたし、祥吾はとても怖い顔をしている。せっかくの色男が台無しだ」