強引社長の甘い罠
 七年前、まだ日本の食品会社に勤めていた俺は、八つも年下の唯に夢中だった。彼女は俺が初めて本気で愛した女性だった。
 国際結婚だった俺の両親は、俺が六歳の頃に離婚している。父の遺伝子を色濃く受け継いだ青い瞳のせいで、俺は母と二人、つらい幼少時代を過ごした。

 唯と出会った頃、それまで働きづめだった俺の母親が体を壊し、入退院を繰り返していたが、唯は本当によく世話をしてくれた。母が死んだとき、彼女は人目もはばからず泣いてくれた。そんな彼女を、俺はずっと傍で守りたいと思っていた。

 だから、離婚してアメリカに戻り疎遠になっていた父が、俺に会社を継いで欲しいと持ちかけてきたときも、受けるつもりなどなかった。父が余命一年の宣告を受けたことを知らされなければ、俺はずっと日本にいただろう。

 けれど、やはり俺にとってはたった一人の父なのだ。そんな彼が俺を望んだ以上、見放すことはできなかった。
 まだ学生だった唯を必ず迎えに来ると約束し、俺は日本を離れた。俺は彼女を深く愛していた。彼女も同じだと自惚れていた。当然待っていてくれるものだと信じていた。だから、一年経って日本に戻った俺は自分の目を疑った。

 他の男に寄り添い微笑む彼女を見て、俺は絶望した。彼女を愛していた分だけ、憎しみに捕らわれた。そして復讐心が芽生えたのだ。
裏切られた気分だった。別れ際、泣きじゃくりながら俺の迎えを待つと言った彼女の言葉は、ウソだったのだと思い知らされた。どんなに愛していると言っても、一年も離れていれば、心だって離れるのだ。彼女だって、ほかの多くの女性と何も変わらなかったのだ。
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