強引社長の甘い罠
 俺はそれから死に物狂いで働いた。やがて投資会社を興し、名実ともに成功した俺は、今こそ彼女に復讐をと目論んだ。彼女に近づき、追いつめ、奪いつくすことを目標に、俺は手始めにアイクリエイトを買収した。俺の、まったく身勝手な個人的理由だけで。

 もちろん、世間的におかしいところは何もない。この会社、アイクリエイトは成長中で数年前に上場したばかりだ。それが結果的に他人の手に渡る原因になったと言えなくもないが、俺の目的は別のところにあるのだから、いずれは皆にとっていい結果になると信じている。俺は経営に口を出すつもりはないし、このまま現在の経営陣で問題はないと思っている。少なくとも今のところは。俺は必要な投資を行い経営を手助けするだけだ。ひいてはそれが俺の利益となり、会社の利益となる。

 問題なのは、俺がこの会社を手にいれようと思った動機だ。
 まったくばかげている。冷静になったとき、自分がこんなに嫉妬深くて、器の小さい男だったのかと愕然としたことも一度や二度じゃない。けれど彼女のことを思い出すだけで、こうせずにはいられない自分がいるのだ。そう、俺は周りの評価に値しない人間だと、素直に認めよう。俺はこういう人間なのだ。俺を賞賛する者は皆、俺の取り繕った外面に惑わされているだけだ。

 幸子さんをソファに促す。俺も彼女の向かいに座った。彼女が動いた瞬間、甘ったるい香水の匂いが鼻をついた。

「本当に何もないのね」

 幸子さんがもう一度部屋を見回して同じことを言った。俺は肩をすくめた。
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