強引社長の甘い罠
営業部の広い部屋の前を通り過ぎて奥へ進む。突き当たりを曲がると資料室がある。IT化が進んだとはいえ、紙の資料がなくなるわけではない。終わった案件に関する資料は部署ごとに年度別に分けて資料室で保管している。営業部のフロアにある資料室は、システム開発室と営業部とで利用していた。
ただでさえ昼間の人の気配が少ないところだ。資料室を利用する人などほとんどいないからきっと私一人だろうと思っていた。だからドアが半開きになっていて、中に人の気配を感じたときは少し驚いた。けれど、その人物が誰か分かったときは、もっと驚いた。
「あなたがちゃんと捕まえておかないから悪いのよ」
ドアの隙間から、スラリとしたスタイルのいい女性の後姿が見えた。髪をアップにして、白いパンツスーツを着た女性だ。顔は見えないけれど、その髪の色と声ですぐに誰か分かってしまった。
佐伯さんだ。オートオークション組合の理事、佐伯幸子さん。なぜ彼女が社員でも滅多に立ち寄らないこんな場所にいるの?
少し首を伸ばしてみた。この位置からは棚が邪魔して佐伯さんが話している相手の顔が見えない。ウチの社員に佐伯さんと知り合いの人なんていたの? 祥吾が佐伯さんと知り合いなのは知っている。だけど、まさか祥吾がこんな場所で彼女と話すとは思えない。話すなら祥吾のオフィスの方が都合がいいに決まっているから。
資料室に用事はあるけど、何だか入ってはいけない雰囲気だ。それに、佐伯さんが話している相手が誰なのか興味もあった。私は気づかれないようそっと様子を窺っていた。
「どうしようもなかったんだ」
ただでさえ昼間の人の気配が少ないところだ。資料室を利用する人などほとんどいないからきっと私一人だろうと思っていた。だからドアが半開きになっていて、中に人の気配を感じたときは少し驚いた。けれど、その人物が誰か分かったときは、もっと驚いた。
「あなたがちゃんと捕まえておかないから悪いのよ」
ドアの隙間から、スラリとしたスタイルのいい女性の後姿が見えた。髪をアップにして、白いパンツスーツを着た女性だ。顔は見えないけれど、その髪の色と声ですぐに誰か分かってしまった。
佐伯さんだ。オートオークション組合の理事、佐伯幸子さん。なぜ彼女が社員でも滅多に立ち寄らないこんな場所にいるの?
少し首を伸ばしてみた。この位置からは棚が邪魔して佐伯さんが話している相手の顔が見えない。ウチの社員に佐伯さんと知り合いの人なんていたの? 祥吾が佐伯さんと知り合いなのは知っている。だけど、まさか祥吾がこんな場所で彼女と話すとは思えない。話すなら祥吾のオフィスの方が都合がいいに決まっているから。
資料室に用事はあるけど、何だか入ってはいけない雰囲気だ。それに、佐伯さんが話している相手が誰なのか興味もあった。私は気づかれないようそっと様子を窺っていた。
「どうしようもなかったんだ」