強引社長の甘い罠
「ごめんな、唯」

 穏やかで優しかった聡は、いつだって私のことを広い心で受け止めてくれていた。私は聡に感謝こそすれ、謝ってもらうようなことは何もない。……何も、なかったはずだ。昼間、聡が彼女に言っていた“計画”が関係していなければ。

「ごめんね、って……どうして? 聡が佐伯さんと知り合いだったことを黙っていたからって、そんな……謝ってもらうようなことは何も……」

「いや、そうじゃないんだ……」

 言葉に詰まった聡は、アイスコーヒーのグラスを持つと、ゴクリと喉を鳴らして飲む。それから話してくれた内容は、確かに私にとって予想外のことで、ショックを受けた。

 私が聡と出会ったのは、入社式だった。知った顔のない中、希望の部署に配属されるかどうか分からず、期待と不安で緊張していたときに隣の席に座っていたのが聡だったのだ。
 新人研修の間も何かと私を気にかけてくれた聡と同じ部署に配属が決まったときは嬉しかったし、頼もしく感じていた。その頃の私は別れた祥吾のことをまだひどく引きずっていてどうしようもなかったけれど、聡はそれからずっと、一途な気持ちを見せてくれていたのだ。

「じゃあ、最初から全部、偶然なんかじゃなかったのね」

「……うん。唯は気づいてなかったけど、俺たちはグループ面接のときに一度会ってるんだ。唯はとても緊張していて……寂しそうに見えたのはそのせいかとも思ったんだけど、面接が終わって声をかけたとき、そうじゃなさそうだって分かった。ずっと気になってたんだ。だから、佐伯さんが持っていた唯の写真を偶然見たときは驚いた」

「それで私と祥吾を別れさせる計画にのったの? 彼が、他の女性とそれらしく写っている写真を何度も送ったりしたのも聡だったの?」

 聡が頷く。
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