強引社長の甘い罠
「そんなにうまくいくわけがないと思ってた。ただ、唯を手に入れられるチャンスがあるなら……協力してもいいと思ったんだ。本当に、ごめん」

 聡は面接で一緒だった私のことが気になっていたときに、偶然、大学の後輩だった佐伯さんが片想いしている相手が私の恋人であることを知ったそうだ。祥吾はそのとき既に佐伯さんの父親と取引関係にあり、佐伯さんとも面識があったらしい。彼女は祥吾を、聡は私を手に入れるために、佐伯さんが画策し、聡はその手伝いをしたようだ。

「……そっか。うん、分かった」

「怒らないのか?」

「……正直よく分からない。驚いたし、何でそんなことをしたのって気持ちもあるけど、もう何年も前の話で、私はそれからずっと聡に守られてきたようなものだから……。今、本当のことを聞かされて、どうして私はちゃんと祥吾に確認しなかったんだろう、って思ってる。例え佐伯さんと聡が私と祥吾を別れさせようとしたって、私たちがちゃんと話をしていれば大丈夫だったんだろうし、結局は、私たちがお互いを信じきれていなかったのかもしれない」

「唯……」

「話してくれてありがとう」

 聡に向かって微笑んだ。すると、聡の顔にもやっと笑顔が浮かんだ。私がよく知っている、優しい笑みだ。

 本当に、話してくれてよかった。私と祥吾はまたお互いを必要としているし、聡とも変に気負わずやっていけそうだ。今回のことで、私の聡に対する負い目が軽くなったとは思いたくないけれど、実際に気が楽になったのは本当だ。

「俺もずっと後悔してて……。今回偶然にも彼女といるところを唯に見られたのは、結果的に良かったと思ってる。唯を手放したくないと思って躍起になってた時期もあったけど、唯が社長とうまくいって、案外ホッとしてるのかもしれないな」

「聡……」
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