強引社長の甘い罠
 遅めの朝食を済ませた私たちは岐路についた。
 昨日とは別の駐車係が、やはり少し高揚した顔で祥吾の車をエントランスにつけて降りてきた。完璧な営業スマイルに見送られながら、私は祥吾の車の助手席に滑り込み、私がシートベルトを着け終わるのを見届けると祥吾は車を発進させた。

 耳に響くエンジン音が心地いい。祥吾がまたルーフを開けてくれたので、私たちは海沿いの道を潮の香りを感じながらドライブを楽しんだ。

 サングラスをしてサラサラの髪をなびかせながら運転する祥吾は間違いなく魅力的だ。たまに私たちを足止めする信号にも今日はイライラさせられない。だって、隣でハンドルを握り、白い歯を見せて私に笑いかけているのは祥吾なのだ。

 それに、交差点で並んだ車に乗る、派手に肌を露出した若い女性や、信号待ちする地元の人らしい小さな子連れの母親、少し年配の主婦など、祥吾を視界に入れた人が皆、うっとりと彼に見惚れている。彼がサングラスを取ってその魅力的なブルーの瞳を見せたら、卒倒しちゃうんじゃないかしら。そしてそんなあからさまな視線に祥吾が気づいていないはずはないけれど、彼はまったく気にしていない。ただひたすら、私に極上の笑顔を向ける。私だけに!

 祥吾は私の恋人なの。私がこの世で誰よりも愛している人。ああ、私ってこんなに嫌な人間だった? 私だけを見つめてくれる祥吾が誇らしくてならない。私の独占欲を満たしてくれる彼が愛しくてならない。彼は私のもの。そして私は、彼のもの。私は彼を愛していて、彼も私を愛してくれる。
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