強引社長の甘い罠
　世間で言うお盆も過ぎた今日、なんとなく閑散としていたオフィス街も再び活気に満ちてきた。もっとも、私のいるシステム開発のフロアは違う。お盆など関係なく、フロア奥の聡が所属する部署はオートオークションの件でずっと忙しくしている。この仕事に関わっているＳＥで夏期休暇を取れた人はおそらく一人もいないだろう。

　私が自分のデスクで休暇申請の書類を書いていると、声を掛けられた。振り向くと聡が立っている。

「ちょっといい？」

「どうしたの？」

　私は椅子を引いてくるりと回すと聡の方を振り返った。彼は切れ長の瞳を細めてにこりと笑った。けれどやっぱりその顔に見える疲労の色を完全には隠しきれていない。

　聡とはファミレスで会ってからも何度か会社で話をした。その関係はすっかりよき友人、よき同僚になっている。そんな関係に戻れたのは奇跡のようで、私は誰にというわけでもなく感謝していた。

「ちょっと追加して欲しいページがあるんだ。大丈夫、そんなに大変なページじゃないよ」

　慌てて付け加えられた一言に、私は微笑む。幸い私の仕事は彼と違ってそんなに多忙を極めていない。

「どんなページ？」
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