強引社長の甘い罠
 話したいことがあるとは言わずに、普通に誘った。私から誘うのはわりとめずらしい方だけど、彼女は特に不思議に思わなかったようだ。

「いいね、行こう行こう」

 ニカッと笑って及川さんが承諾する。するとそこへエレベーターの到着する軽快な音がして、壁の向こうから皆川さんが顔を出した。

「あ~、やっぱり! 二人の声がすると思いました」

「あら、皆川ちゃん」

「何を話してたんですか?」

 にこにこ笑いながらこちらにやってくる皆川さんは本当にいつも明るい。彼女にだって悩みくらいあるんだろうけれど、そんなことまったくないんじゃないかと思うくらい無邪気で、周りの雰囲気が途端に和やかになる。

「飲みに行こうって話をしてたの。皆川ちゃんはいつなら空いてる?」

 及川さんが尋ねると、彼女はパッと顔を輝かせた後、すぐにしかめ面をした。

「毎日空いてますよ! もう、及川さんったら知ってて聞いてますよね」

 皆川さんの抗議に、及川さんがあはは、と軽快に笑い声をあげた。

「もちろん知ってるわよ。でも、念のために聞いただけよ、変な意味はないわ」

 そして私と皆川さんを交互に見る。

「じゃあ今夜でいいわよね。今日も暑いし、すっごくビールが飲みたい気分!」
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