強引社長の甘い罠
 タクシーに乗って指定されたホテルについた私はあまりに今の祥吾らしいホテルの手配にうんざりして溜息をついた。でも、部屋番号を告げて案内されたのが最上階のスイートルームだったときは頭に血が上って客室係を早々に追い返した。

「ばっかじゃないの!」

 ドアが閉まって一人になったとき、私は思わず叫んでいた。そこは、観葉植物や絵画、座り心地の良さそうなロビー用チェアがセンスよく配置されている、この部屋専用のロビーだった。世界各国の上流社会に属する客を迎えるのにふさわしい場所だ。

 荷物も持たず真っ直ぐここへ来た私は――祥吾の言うとおりになっていることには腹が立つが――そのままズカズカと乱暴に足音を立てながら目の前のドアを開けた。最高の性能を誇る設備でしつらえたと思われるオーディオルームがあった。

 いったん部屋を出て、今度は右側のドアを開けた。そこは卒倒しそうなほど広いリビング・ダイニングだった。私がたった一人で泊まるというのに、大きなダイニングテーブルには椅子が一、二、三……十脚もある! 南側は全面床から天井まで続くガラス張りで、当然ガラスのドアがついていた。その先には奥行きのあるバルコニーが広がり都会の眺望を楽しめるようになっている。部屋の隅にグランドピアノが置いてあるのは当然だろう。だってここはスイートルームなのだ。

 私は高級そうなカーペットが敷かれたその部屋を今度はそっと通り抜けた。たった一つの部屋を横切るのに、私が今、何歩、歩くはめになったかは考えたくない。
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