強引社長の甘い罠
 祥吾も反省しているのだ。私をあっさり捨てた彼を許せるとはとても思えないけれど、ここで私がわめいたって事態は何も好転しないこともわかっている。
 彼が気を遣って申し出てくれた好意を私は素直に受け取ることにした。

「レモンのシャーベットなら……」

 祥吾が席を立った。両手で顔を覆って俯いたままだったからわからないけど、何かを操作してインターホンのようなものでデザートを手配している。

 ほどなくしてチャイムがなり、祥吾がダイニングの壁についていたタッチパネルを操作して応答すると、先ほどの客室係が一人部屋に入ってきて、私のテーブルにシャーベットを置いた。何だ、そんな方法で対応することもできたのね。

 私が艶々と輝く淡いレモン色のシャーベットをすくって口に運ぶ間、祥吾は黙ったまま私の向かいに座っていた。私がシャーベットを口に運ぶ様子をじっと見つめている。

「祥吾は食べないの?」

「俺はいい」

「そう……」

 会話が続かない。沈黙が苦しい。今までこんなこと、意識したことなどなかったのに。二人の間の溝をこれほどまでに感じたことは初めてだ。

 シャーベットはおいしかった。レモンのほどよい酸味とほのかな甘みが口の中で広がり、食欲のなかった私の喉をするりと滑り落ちていく。あっという間に半分ほど平らげた。
 上目遣いにちらりと祥吾を見る。彼はまだ私を見ていた。私はすぐに視線を落とす。半分残ったシャーベットを見つめながら、気になっていたことを聞いた。
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