強引社長の甘い罠
 相変わらずガラス製のドア脇に真っ直ぐ立ってこちらを見ている浜本さんのことは、意識して気にしないことに決めた。

「賢い良平の知恵を借りたいところよ」

 少しわざとらしく良平を持ち上げると、彼が声を出して笑った。

『何か企んでるな。いいよ、相談に乗るよ。俺も唯をランチに誘うつもりだったんだ。出て来られる? っていうか、お前今、どこ? 家?』

 私はまたチラリと浜本さんを見た。この部屋から出ることを許されるだろうか。ああでも、祥吾は“一人で出歩くな”と言っただけだった。ということは、私の外出にはあの機械のようなボディーガードの彼女がもれなくついてくるということだ。私は電話の向こうに聞こえないよう、ゆっくりと長い息を吐き出した。まるで自由がなくて息がつまる。

「家じゃないけど、大丈夫。そっちに行くわ。良平は仕事中でしょう?」

 彼は「まあな」と言って笑った。
 私が朝食を食べたばかりだと言うと、良平はこの後近くで二件の仕事があるということで、少し遅いランチを提案してくれた。私たちは午後一時半に約束をした。場所は私の会社の近くのカフェだ。良平は最初、駅で待ち合わせようと言ったけれど、あの駅は会社の真ん前にある。さすがに休んでいる人間が会社の真ん前でたたずむのは憚られたので、少し歩いたところにあるカフェにしてもらったのだ。それに、オープンテラスもあるそのカフェは待ち合わせにも適している。
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