強引社長の甘い罠
 浜本さんと男性のボディーガード――やっぱり名前は思い出せない――に前後を挟まれるようなかたちで外に出る。電車で行くという選択肢はなかった。ホテルのエントランスにはすでにタクシーが待機していて、浜本さんが私の隣に、男性のボディーガードが助手席に乗り込むと車は発進した。そして十分後、私は約束の時間より二十分も早く待ち合わせ場所にいた。

 オープンテラスになっているテーブル席で良平を待っていると、彼は時間通りにやって来た。ピンストライプの濃紺スーツに白いシャツ、えんじのネクタイ姿の彼のことは、遠くからでもすぐにわかった。
 私と同じ栗色で少しクセのある髪は、私にとっては悩みのタネでしかないのに、彼にとってはチャームポイントだ。端正な顔立ちの彼の一見鋭く見える印象に柔らかさをプラスしている。

 私は手を振った。すぐにそれに気づいた良平がにっこり微笑むと、彼は周りの女性たちの視線を独り占めした。彼の魅力は健在だ。
 良平が通りから手招きをしたので、私は飲んでいたアイスコーヒーを少し残したまま席を立つと彼に近づいた。当然、私についてきている二人のボディーガードも私の動きに合わせて立ち位置を変えた。良平はすぐに気づいた。

「何? 唯の知り合い?」

 私から三メートルほど離れた場所で、私を挟むようにしてこちらを見ている二人にそれぞれ視線を走らせてから良平が耳打ちする。私はさもうんざりといった感じで肩をすくめた。
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