強引社長の甘い罠
 良平がポケットから小さなメモ用紙を差し出した。なるほど、鉛筆で簡単な地図と店の名前が書かれている。
 私たちは二人ともざるそばを注文した。入り口に立つ浜本さんとおそらく表に待機しているであろう男性のことは気にしないと決めたけれど、彼らが食事を済ませたのかどうかは今頃になって少しだけ気になった。だけど今はお昼をとっくに過ぎた時間だし、彼らはきっとホテルで既に食事を済ませているだろうと思い込むことにした。彼らはプロだし、そう考える方が自然だ。

「じゃあまずは、唯が困ってる話を聞こうか。まあだいたい想像はつくけど」

 運ばれてきたそばの、最初の一口を飲み込んで良平が言った。入り口に一瞬移した視線を、すぐに私の顔に戻す。私は軽く頷いた。

「その通りよ。私、朝からずっとああして見張られてて息がつまってるの。でも、ここへ来る途中でも話したように、理由はさっぱりわからないのよ。ただ、あーしろ、こーしろ、って命令されてるだけ。こうして良平にランチに誘ってもらえてほんと助かった」

「そりゃ、よかった。でもこうして見てると、もう馴染んでるように見えるな」

 眉根を寄せた。

「誰が? 何に?」

「唯が、彼らに」

「何を言ってるの?」

 良平が笑う。途端に人懐っこい表情になる彼はやっぱり魅力的だ。
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