強引社長の甘い罠
「適応能力が高いんだよ、唯は。確かに理由がわからなくて不満なんだろうけど、それはそれとして、思ったよりこの状況を楽しんでいるように見えるよ。唯にボディーガードをつけて見張ってるのは桐原祥吾なんだろう?」

「う、うん……」

「やることが大げさだとは思うけど……彼は俺なんかよりずっとアメリカでの生活が長いわけだし、立場上危機管理にうるさいのは仕方がないことなのかもね。彼の会社、今色々と大変らしいし、唯も恋人なんだったら言いたいことを言えばいいんだ。彼と話し合って理由を説明してもらうべきだよ」

 私は曖昧な笑顔を作った。良平は勘違いをしている。私は祥吾の恋人じゃない。確かに一時はそうだったけれど、今はもうそうじゃない。祥吾は結局、私ではなく佐伯さんを選んだ。

「そうね……」

 私は弱々しく頷いてみせた。祥吾は恋人じゃないということを今、この場で良平に説明する気になれなかった。それに、私にはもう一つ気になっていることがあった。

「ねえ、良平。良平は知ってるの? 祥吾の会社に何があったか」

 良平がそばをすする手を止めて私を見た。ゆっくりとそれを飲み込むと、辺りを見回す。気づけば一人いた男性客は帰った後だった。

「まあ、少しはね」

「いったい、何があったの?」
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