強引社長の甘い罠
 急に身を乗り出した私に良平は少し驚いたようだった。目を大きく開けて少し顔を引いた。

「何も聞いていないのか?」

「うん、何も。心配することはない、って最初に言ってたけど、それっきり……何も」

 そして祥吾は私を捨てたのだ。

「唯から聞いたりしなかったのか?」

「聞こうとしたけど、ダメだったの」

「そっか……」

 それから少し、良平は黙り込んでしまった。何かを考えているみたい。私が問い詰めるように彼の顔を覗き込むと、彼は申し訳なさそうに微笑んだ。

「まあ、俺もそれほど知ってるわけじゃないけどな。ただ、彼の会社の重役が会社の金を使い込んでたらしいよ。それが原因で色々ごたついているらしい。俺もそれ以上は知らないし、詳しいことは彼の口から説明してもらえよ。あまり表沙汰になってないみたいだから、どこかで緘口令でも敷かれてるのかもしれないし。今日彼が帰ってきたらもう一度聞いてみたら?」

「…………」

 初めて聞かされた事実に私は一瞬言葉を失った。良平が心配そうな声を出した。

「唯?」

「……うん、そうしてみる」

 小さな声で返事をした。
 そんなことになっていたなんて知らなかった。何度かネットで祥吾の会社のニュースを調べたけれど、そんな情報どこにもなかった。表沙汰にしたくないことだから祥吾は私にも話さなかったのだろうか。でも、それならどうして、全然関係のない良平がそのことを知っているのかもわからない。そして、どうして祥吾が急に私への態度を変えたのかも……。
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