強引社長の甘い罠
 良平には頷いたけれど、この件に関して、私が祥吾に聞いたところで彼が教えてくれるとは思えなかった。それに、今夜も祥吾があのホテルに帰ってくるはずもない。でももし、今度彼に会う機会があったなら、もう一度だけ聞いてみよう。自分で理由を聞こうとしないで後悔するのはもう嫌だ。

「祥吾の会社のことはもう一度彼に聞いてみる。でも良平はどうしてそんな話を知っているの? 緘口令が敷かれているなら良平が知っているのは変じゃない?」

 私が訊ねると、良平は少し罰の悪そうな顔をした。

「まあそうなるよね。でもごめん、それについてはまだ俺からは話せないんだ。だけどそれもひっくるめて彼に聞いてみたら? いずれ分かることだし、もしかしたら教えてもらえるかもしれない」

 私は唇を尖らせた。少し納得がいかないけれど良平がそう言うのなら仕方がない。彼にだって立場上、イトコにも話せないこともあるのだろう。それが何なのか全く想像がつかないけれど。

「あとさ、唯……」

「うん?」

 良平が眉尻を下げて微笑んだ。

「半年は日本にいる予定だったんだけど、ちょっと変更になってさ。来月またアメリカに戻ることになったんだ。先立って来週一週間もあっちに行くから、また会えなくなるな」

「え……うそ……」

「せっかくまたこうして唯と会えると思ったのになー」

 良平がテーブル越しに腕を伸ばして私の頭を軽く撫でた。

「まあ、今度は行ったきり戻ってこない、なんてことにはならないと思うから。年に数回はこっちに帰ってくるからまた飯でも……って、バカだな、泣くことないだろ」

 良平がアイロンが綺麗にかけられたグレーのハンカチを差し出して私の手に握らせた。
 やだ、本当。どうして私、泣いたりなんかしているの? 今まで四年間、一度も良平に会わずにいて平気だったくせに。

 良平に借りたハンカチで私は目元を押さえた。幸い涙はすぐに止まった。最近色々なことがあって、私は本当に涙もろくなっている。しっかりしないと。
 まだ少し潤んだままの瞳で笑った。
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