強引社長の甘い罠

一番大切なのは君

 パソコンで資料に目を通していた俺は、もう三十分も同じページを開いている。気もそぞろで落ち着きがなく、仕事が手につかない。しばらくどうしたものかと考えた後、俺は諦めて資料を閉じた。三十分もかけて一ページも進まないのだから、これ以上は時間の無駄でしかない。

 三十分前、俺が唯の身辺警護を依頼した浜本から電話があった。唯が出掛けるという連絡だった。
 彼らは要人警護のプロフェッショナルだ。俺はセキュリティ関連は機械にしか頼ったことがなく、生身の人間を雇ったことは一度もない。ましてやここは日本。俺のツテも限られてくる。

 アメリカにある俺の会社で起こった問題の連絡を受けた後、俺は想定しうる全ての状況に対応するために、佐伯氏に警護のスペシャリストを紹介してもらった。それが先ほど電話を寄越した浜本ともう一人、溝口だ。
 佐伯氏に優秀な人材を紹介してもらう際、俺は条件をつけた。それは、女性と男性のペアで派遣してもらうということだ。唯をいつでも守るには、女性がいたほうが都合がいいと判断したからだ。でもいくら腕がたつとしても女性だけではダメだ。一人は男性でないと。男の力が必要な場合もあるかもしれない。

 そしてやってきたのが彼らだった。彼らは現在、唯と行動を共にし、彼女の周りで起きかねない様々な状況に適切に対応するよう指示してある。
 彼らはプロだ。だが、そこはあくまでも民間のボディーガード。セキュリティポリスと違い、所持できる武器も限られるし出来ることにもかなりの制限がある。俺はそれを危惧している。
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