強引社長の甘い罠
 椅子に深く背を預けて両腕を肘掛に載せると、目を閉じ頭を軽く振った。我ながら心配性だ。ここは日本。起きる可能性の低いことを想定して神経をすり減らしているのだから。
 唯の安全が脅かされることなど、論理的に考えても十パーセントもないだろう。だけど俺はその十パーセントに備えないではいられない。

 頭を切り替えて仕事に戻ることにした。その前にまずは熱いコーヒーを飲もう。秘書課の誰かに頼んでコーヒーを持ってきてもらおうと、デスクの上の電話に手を伸ばしたところで内線がなった。眉をひそめて受話器を取った。俺の休憩を邪魔したやつはいったい誰だ?

「はい、桐原」

『社長、お疲れ様です。システム開発の井上です』

「ああ、ご苦労様」

 俺はますます眉根を寄せた。彼が俺に直接連絡してくるのは初めてだった。オートオークションシステムの件で俺と彼は何度もやり取りをしていたが、彼から何か用事があるとき、今まではいつも彼の上司を通して俺に連絡が入っていた。

『お話したいことがあります。よろしければ今夜、無理であれば近いうちにお時間をいただけませんか』

 この電話では済ませられない話ということなのだろう。俺は彼の用事にだいたいの見当をつけた。仕事の話ではないはずだ。であれば彼女のことに違いない。
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