強引社長の甘い罠
 祥吾がこちらを振り向いた。メイソンさんから手を離してくれたらしい。私は少し安堵した。祥吾は何かに逆上していたようだけれど、落ち着いて話を聞いてくれる気になった?

「ルークが唯に声を掛けたんじゃないのか?」

「ルーク?」

「ルーク・メイソン。彼の名だ」

 ああ。彼のファーストネームはルークというのね。私は首を振った。

「違うわ。彼は何もしていない。私が彼に声を掛けたの」

 祥吾はしばらく何かを考え込んでいるようだった。そして今度はメイソンさんを見て言った。

「じゃあいったいどうして、ルークがここにいるんだ。唯を狙って日本に来たんじゃないのか?」

「違うわ、祥吾。彼は彼の奥さんを偲んで日本にやってきたのよ。どうして彼が私を狙うの? 私たち、今日初めて会ったのよ」

「ユイさん、すみません。あなたにはお話していないことがあるんです」

 メイソンさんが私を見て申し訳なさそうに微笑んだ。私、彼に苗字だけじゃなく、名前まで名乗ったかしら? ああ、それにしても彼の笑顔はやっぱりどこか物悲しい。

 浜本さんが近づいてきて、私たちを別の場所へと促した。どうやら騒ぎを聞きつけて警官が来たらしい。
 私と祥吾、そしてメイソンさんは、いつの間にか手配されていたタクシーに乗せられた。助手席に浜本さんが乗り、もう一人の男性のボディーガード――さっき祥吾が溝口と呼んでいた――はその場に残った。この騒ぎに対処するのだろう。溝口さん以外の私たちは、そのまま私が宿泊しているホテルへと戻った。
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