強引社長の甘い罠
 聡が抱き寄せていた皆川さんを見下ろす。彼女は真っ赤になった顔でコクリと頷いた。
 私も祥吾を見上げた。本当なのかどうか問い詰めたい気もするけれど、今この場ではやめた方がいいみたい。祥吾はいつになく顔を赤くして居心地が悪そうだし、別の事実も知ったから。私は皆川さんに向かって微笑んだ。

「おめでとう、皆川さん。良かったね」

 彼女はパッと顔を上げるとその顔をくしゃくしゃに崩して笑った。

「はい!」

 幸せそうな二人を見ながら、この二人の結婚式ももしかしたら近いかもしれないと思った。今思えば、皆川さんは憧れなんかじゃなくて、ずっと聡のことが好きだったのかもしれない。こんなに可愛いのに恋人を作ろうとしなかった理由も、本当はそこにあったのだろうか。だとしたら、私が彼と付き合っていたとき、彼女は笑顔の下で一人、胸を痛めていたかもしれない。そう思うと切なくなった。

 もう二度と大切な人たちを傷つけないように、これからは自分にも相手にも正直に生きていこうとこっそり誓った。

「唯!」

 大きな声で名前を呼ばれた。聡たちから一旦離れて声がした方を見ると、前方に広がるビーチから長身の男性が手を振っている。

「良平!」

 私も負けじと叫んで手を振った。
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