強引社長の甘い罠
「あら、いいじゃない。結婚してるなら問題ありだけど、私たちは独身よ。彼氏がいようがいまいが、目の前にイイ男がいたら飛びつくに決まってるわ。しかも企業買収するくらいだもの。彼と結婚したら贅沢な暮らしが約束されたも同然よ」
彼女がちらりと私を見た。
「七海さんだって、新しい社長が井上くんより素敵だったら、目移りするでしょう?」
「私は別に……興味ありませんから」
「……ふうん」
及川さんは、私が話に乗ってこないことがつまらないのか、視線を前に戻すとそれ以上は話しかけてこなかった。
やがて総務部長の挨拶で朝礼が始まると、それまでざわついていた社員も一同静かになった。
副社長がフロア前方に用意された簡易的なスピーチ台に上ると、最近の市場経済についての話を始める。ここまでは毎週恒例だ。つまらないなどと言うつもりはないが、代わり映えのない内容に、やや退屈なのも本音である。
だが、副社長の話が終わると、司会を務めている総務部長の言葉で急にフロアが騒がしくなった。
「それでは次に、この度、わが社の代表取締役社長に就任されました、桐原社長からの挨拶です」
私は、騒がしくなったフロアに、女子社員の色めきだった声が混じるのを感じながら、視線を前に移した。
人の多いフロアでは、背伸びをするか隙間を覗かないと前を見ることは出来ない。だけど、そんなことをしなくてもその人物の姿を視界に捉えるのは簡単だった。
スラリとした長身のその男性は、白い歯を見せて爽やかな笑みを浮かべながらフロアに入ってきた。普通の人より頭一つ分抜き出ている彼は私の視界に簡単に侵入する。
黒い髪。高い鼻と頬骨。そして、人目を惹き付ける、その深い海のようなブルーの瞳。
私の心臓がドクンと激しく震えた。瞬きさえすることができず、その人物に魅入る。ガクガクと体が震え、倒れずに立っていられたのはまさに奇跡としか言いようがない。
彼女がちらりと私を見た。
「七海さんだって、新しい社長が井上くんより素敵だったら、目移りするでしょう?」
「私は別に……興味ありませんから」
「……ふうん」
及川さんは、私が話に乗ってこないことがつまらないのか、視線を前に戻すとそれ以上は話しかけてこなかった。
やがて総務部長の挨拶で朝礼が始まると、それまでざわついていた社員も一同静かになった。
副社長がフロア前方に用意された簡易的なスピーチ台に上ると、最近の市場経済についての話を始める。ここまでは毎週恒例だ。つまらないなどと言うつもりはないが、代わり映えのない内容に、やや退屈なのも本音である。
だが、副社長の話が終わると、司会を務めている総務部長の言葉で急にフロアが騒がしくなった。
「それでは次に、この度、わが社の代表取締役社長に就任されました、桐原社長からの挨拶です」
私は、騒がしくなったフロアに、女子社員の色めきだった声が混じるのを感じながら、視線を前に移した。
人の多いフロアでは、背伸びをするか隙間を覗かないと前を見ることは出来ない。だけど、そんなことをしなくてもその人物の姿を視界に捉えるのは簡単だった。
スラリとした長身のその男性は、白い歯を見せて爽やかな笑みを浮かべながらフロアに入ってきた。普通の人より頭一つ分抜き出ている彼は私の視界に簡単に侵入する。
黒い髪。高い鼻と頬骨。そして、人目を惹き付ける、その深い海のようなブルーの瞳。
私の心臓がドクンと激しく震えた。瞬きさえすることができず、その人物に魅入る。ガクガクと体が震え、倒れずに立っていられたのはまさに奇跡としか言いようがない。