オオカミくんと秘密のキス
隆也と洋平は立ち上がると、お袋に駆け寄って近づいた。




子供は元気だな…


俺はゆっくりと立ち上がり、またソファーに座って時計に目をやった。




沙世が来るまであと1時間切ったな…

やっとか。今日1日長かったな…





「あれ?そういえばケーキでどうなってるの?妃華ちゃんが頼んでくれたのよね?」


思い出したようにお袋が言うと、キッチンで洗い物をしている妃華が手を動かしながら言った。






「…………ケーキ屋さんがここまで届けてくれるって」

「そう、ならいいわ」


妃華とお袋の会話を聞きながら、俺はスマホに手を伸ばして何気なく画面をスライドさせる。




沙世は今どの辺だろう…

東野んちからもう出たかな?


電話だけしてるか…







「あらっ…見て。外すごい雲よ?雨が降ってくるんじゃない?」


雨…?




お袋のその言葉を聞き、俺はとっさに窓の外に目を向けた。

黒の強いグレー色の雲が空を覆い、外はいつの間にか暗くなっている。天気に詳しい方ではないが、これから雨が降ることは誰だってわかる光景だ。





ゴロゴロゴロゴロ…





「嫌だ雷…やっぱり一雨くるわねこれは…」


お袋はリビングの窓からかじりつくように外を眺めていた。その隣で、弟達もポップコーンを食べながら外を見ている。






沙世…






俺は立ち上がって窓に近づくと、お袋達に並んで外を眺めた。

そしてすぐに手に持っているスマホで、沙世に電話をかける。






プププ…

ーーお客様のおかけになった電話番号は、電波の届かない所に…






「…」


繋がらない…


もう一度電話をかける。






やっぱり繋がらない…





またかける…







ダメだ…











「ちょっと!凌くんどこ行くの!?」


俺はリビングを飛び出して、玄関に向った。後ろからお袋が追いかけて来て、玄関で靴を履く俺に近づいた。






「沙世と連絡が取れないんだよ…ちょっと心配だからそのへん見てくる」

「でも…沙世ちゃんがどこにいるかわかるの?」

「…わかんねえけど…多分もう近くにいるはず」


こんな不安定な天気なのに、沙世を一人でここまで来させるわけにはいかねえよ。






「だけど…とりあえず約束の時間まで待ってみたら?行き違いになったら困るでしょ?」

「…そうだけど…家でじっとなんかしてられねえよ」


俺はそう言うと、玄関の傘立てにさしてあるビニール傘を手に取った。






「もし沙世が来たら連絡して」

「うん…気をつけてね」


心配そうなお袋に背を向けて、俺は玄関のドアを開けた。

リビングから顔出す弟達はどこか不安そうな顔をしていて、その後ろにいた妃華が焦ったような表情をしていた事に今の俺は気づいていなかった。







ヒュウウウウゥ…




外に出るとものすごい風が吹いていて、空はさっきよりも雲がかかっているように見える。

俺は小走りで庭を通り家の前の道路に出た。
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