オオカミくんと秘密のキス
振り返ると後ろには中学の時からの親友、小川 春子(おがわ はるこ)がいた。




「おはよー」

「おはよん!沙世はいつも綺麗で可愛い♡」

「そんなことないよ…」


春子は背が小さく、すごく華奢でふわふわの長いミルクティー色の髪を二つに束ねている。目がパッチリしていて人形のように可愛い春子…私とは正反対の外見を見る度に、いつも羨ましいと思ってしまう。






「春子の方が100倍可愛いでしょ。本当に羨ましい」

「私はただのチビ。おまけにこんな声してるんだよ?羨ましがられることなんてないよ」



春子はショボンとしながらローファーを脱いぐ。


こんなに可愛い春子にも私のようにコンプレックスがある。

春子の声はものすごいと言っていいくらい高く、話し方や言葉の語尾の伸ばしはわかりやすく言うとアニメ声といったらいいだろうか…まるで声優さんのような声なのだ。

私はそれもまた春子の可愛いところだと思うし、チャームポイントと言っていいくらいだけど…春子は自分のその声が嫌いみたいでとても気にしている。






「聞いた?今の小川さんの声…あれわざとでしょ?」

「朝からキーキーうるさいよね…本当迷惑」


近くにいた女子生徒達の会話がこっちまで聞こえてくる。


春子が自分の声を嫌う理由は、こんなふうに周りから陰口をたたかれるからというのもあるんだ…

春子は計算したりぶりっ子するような子じゃない。友達思いでサバサバしてるすごくいい子なのに、このアニメ声のせいで周りからはぶりぶりしているように見えるのだろう…


今の陰口が聞こえたのか上履きを履く春子の顔が曇る。私はその女子生徒達の方を見て、思わず睨んでしまった…





「げ!萩原さん!!」

「行こうよ!シメられるよっ」


女子生徒達は逃げるように教室のように走っていく。



こういう時にこんな見た目で良かったと思うよ…

いつもは睨んでるつもりないけど、今は明らかに自分でも意識して睨んだから相当インパクトあったはず!ざまーみろ!






「春子行こう」

「…うん」


私は春子の小さな肩を叩き、2人で並んで教室に行った。





「気にすることないよ。私は春子のその可愛い声が好きだよ」

「ありがとう沙世。そうだよね…気にすることないよね」


フフと笑う春子は、元気よく両手でガッツポーズをした。


私達はお互いコンプレックスがあり、それを理解しながら支え合っている。私と春子の友情はそこが固く結ばれているのだ。

春子と同じ高校に入学式出来たし、クラスも同じになれて良かった。春子は私にとってかけがえのない友達であり一番の理解者。





「沙世だって見た目怖めだけど、私は沙世の乙女チックな部分は誰にも負けないってことわかってるからねっ」

「あ、ありがとう…」


お互いを理解しているから言うこともストレートだな。

たまに自分のことをストレートに言われ過ぎて、もろに胸にぐさっと突き刺さるな(笑)







がやがや



私達のクラスは1年C組で、教室に入るとクラスメイト達がそれぞれ楽しそうに話している。


みんな高校生になったばかりで新鮮な気持ちなのかキラキラしてて楽しそうだけど、色んな地域から集まった男女が必死に仲良くしようとしてる…といったように見えるは私だけだろうか?

人見知りでそういうのに参加出来ない私と春子は、なんだかすごく落ち着いているように見えてクラスの中では浮いているみたいに感じた。





「なんか合コンみたい…」


冷めた顔をしてボソッと言う春子。私は周りに聞こえていないかヒヤヒヤしながら近くをキョロキョロとする。





「荷物置いてくるね。すぐそっち行くよ」

「うん」


春子の席は窓側の一番前の席で、春子は自分の席に小走りで向かった。

私の席は廊下側の一番前の席。私は自分の席に着くと、机にカバンをおろした。





「アハハハ」

「なんだよそれー」


椅子に腰を下ろそうしたら、私の隣の席がなんだか騒がしい。ちらっと横に目を向けてみると…クラスの数人の男子達が固まって喋っていた。


入学したばかりでまだよく知らないが…私の隣の席の男子の周りには、昨日も男子達が固まっていたような気がする…

見た感じでいうと…クラスでも目立っている男子達の集まりって感じかな?みんな顔はまあまあかっこいいし。
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