不都合と好都合
「挨拶回りなんて今日中にやってしまえばいいんでしょ?どうせ配ってる品物も洗剤でしょ?私、受け取った途端に分かったんだ。」
ひろ子はもらった包みをビリビリ破った。
「ほらやっぱり洗剤だ。だったら腐るものじゃないんだし、ゆっくりできるじゃん!ね?ゆっくりして行きなよ。」
ひろ子の剣幕に客人も驚いていたが
「そうなんですが、家で主人が荷物を運びながら待ってると思うんで、あんまり遅くなると心配すると思うんです。」
と、迷惑そうな表情を浮かべた。その言葉にひろ子の心は途端にへなへなとなったのであった。
「そう!ご主人が待ってらっしゃるんなら仕方ないわね。じゃあ、落ち着いたらお話ししましょうね。」
ひろ子はまた満面の笑みを顔面に張り付けて言った。
「せっかく誘ってくださったのにすみません。落ち着いたらお邪魔しますので。よろしくお願いします。」
深々とお辞儀をして客人は立ち去って行った。

「うちの前に建て売りが立って、どんな奴が越してくるかと思ったら、亭主持ちか。まあ、当たり前だけど。」
ひろ子は一人苦笑した。
年齢的には結婚していて当たり前なのだが、ひろ子は未だに独身であり、それがコンプレックスなのであった。
< 2 / 19 >

この作品をシェア

pagetop