不都合と好都合
橋川めぐみ
引っ越しの挨拶回りを終えて帰って来ると、橋川めぐみを待っていたのは、ふてくされた夫であった。
「お前、どこまで挨拶回りしてたんだよ。もう昼だぜ。俺、腹減ってさ。」
めぐみは慌てて時計を見た。
「ごめんなさい。思ったより時間かかっちゃったね。もう荷物も運び終えたみたいだし。」
止まっていた引っ越しトラックも帰ったあとらしく、なかった。
「ほとんど引っ越し屋が運んでくれたよ。それより、飯食いに行こうぜ。来る途中にファミレスがあったろ?あそこ行こうぜ。」
夫はよほど空腹らしく、一気にまくしたてるように言った。
と、いう事で二人は近所のファミレスへ行ったのであった。

「何にする?」
めぐみはメニューを見ながら夫に聞いた。
「何って引っ越しといえば蕎麦だろうがよ。」
夫の台詞にめぐみは笑ってしまった。
「引っ越し蕎麦か。私は和風スパゲッティにしよう。」
「お前、邪道だな。日本人じゃないよ。」
夫は大真面目だ。
「でも和風だから和だよ。」
「お前、バカだな。和風ってわざわざ付けてるのは、和じゃないって事だよ。」
「確かにスパゲッティは伊だけど。」

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