レイアップ


「何でも良かったんだ。初めは、お父さんが冗談で護身術にもなるから空手でも習えっていったのがきっかけだった」

「本当にユキが空手初めておじさんビックリしてただろ?」

「うん。頼むから辞めてくれって顔ひきつらせながらいってたよ」

冷や汗を浮かべた歯科医師の顔が頭に浮かんだ。自分の失言で家宝である氷の彫刻にキズが入るかもしれないのだ。

「よくおじさん続けさせてくれたな」

「うん。一度でも試合で負けたら辞めるって条件つきで」

「無茶苦茶な条件だな」

その時、ユキの瞳の奥がふいに曇り、まるで神父に懺悔するような口調でユキはいった。

「それでも良かった。その条件があったおかげで必死になれたから、でもそれも長くは続かなかったな。いつの間にか本気を演じている自分が見え隠れてするようになってた。試合に勝ってみんなで喜んでる時も、心のどこかで冷めた自分がいるんだ」


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