レイアップ


ボールがコートの外に出て、審判の笛がなった。敵のベンチから一人の選手が立ち上がる。少年はまたどこかへ消えていた。

おれは敵のベンチをじっと見つめ、そいつがコートに入るのを待った。一年前のおれも、同じように奴を見ている。

奴の名前は、八柴ケイト。
もっとも、その名前を知ったのはこの試合のもっと後の事だけど、あの時ケイトを見た瞬間、おれはすぐに直感した。こいつは本物だ。

身長も体つきも普通の中学生。いや、むしろ少しきゃしゃにさえ見える。
しかし、その異様なほどの白い肌と、少し青がかったブルーの瞳で、日本人でないことはすぐに分かった。アメリカ人とのハーフだろうか。髪の毛が黒いせいか、顔の雰囲気は何処と無く日本人っぽい。

ただ、おれが気になったのはそんなところではない。ケイトが放つ今まで感じたことのない空気。弱小相手に苦戦しているプレッシャーも全く感じさせず、ケイトは落ち着いた表情で静かにコートに入った。

交替選手と軽くタッチを交わし、人差し指を立てる。

「一本イコウ」

少しぎこちない日本語でケイトがいうと、チーム全員がしっかりと頷いた。



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