レイアップ
夏とは思えない涼しい風が、開放された体育館のありとあらゆる窓から吹き抜ける。冷夏の風は、おれの耳から雑音を吹き消し、色も、見えている景色さえも、ペラペラと脳みそから飛ばして、虚無といっていいほどの静寂の中に、おれは一瞬堕とされた。
そして、その静寂の後におれが耳にしたのは、“ゴツン”という鈍い音だ。
山里の顔が歪んで、コートに落ちるのがスローで見える。右の拳がスギンと痛んで、おれは、自分が山里を殴ったことに気がついた。
倒れた山里はピクリとも動かなかった。おれは山里に馬乗りになって、次の拳を振り上げていた。
ゴツン、ゴツン、グシャ。
最後の音がした後に、遅れて止めに入った大人たちが、ようやくおれを羽交い締めにする。大島やコートにいる選手たちは、青ざめた顔でおれを見ていた。