レイアップ
「キミ!何をやってるんだ!」
おれの右腕を掴んだ審判の怒鳴り声でようやく我に返った。シャットアウトされた周りの雑音も急に聞こえてくる。
「誰か救急車を呼べ!」
「試合は中止だ!選手たちをコートから出せ!」
大人たちの怒号と、観客の異様なざわめきが体育館にこだまする。おれの頭は冷たくフリーズしたままだったけど、右の拳だけがズキズキと熱をもって、深紅の血を滴らしていた。
おれは数人の大人に羽交い締めにされながら、そのままコートから引きずり出さた。鼻から大量の血を流した山里は、大の字になって白眼をむきながら、まだ仰向けに横たわっている。
その後、病院にかつぎこまれた山里の診断結果は、鼻と頬骨の陥没骨折で全治2ヶ月。(ちなみにおれの右拳も数本ひびが入っていた)。これが大事にならないわけが無かった。おれは夏休みの間ずっと自宅謹慎を言い渡され、推薦の話も全て白紙になった。
公式戦で前代未聞の強制退場&試合中止。当然、再試合を組まれることもなく、チームにはそのまま出場停止処分が下された。