レイアップ
それは、遠い昔の映像だった。まだ、おれがバスケというスポーツをよく知らなかった頃。
ランドセルを背中に背負ったおれは、体育館の中を覗きこんでいた。
いつも放課後の体育館からダムダムと音が響いている。わいわいと沢山の生徒が下校する中、みんな真剣な表情で汗を滴らし、黙々と何かに取り組んでいる。その目付きは同じ子供とは思えない力強さで、体育館から放たれる彼らの空気には、近寄りがたいものがあった。
まるで、別世界。壁一枚挟んだ向こう側は、未知の空間だった。
ただの怖いもの見たさのような感覚だったのかもしれない。外からは眺められるが、決してその壁を越えようとはしない。
だんだん小さくなってくるランドセルの肩をかけなおして静かにその場を後ずさった。
だが、後ろを向いた瞬間、グイッとランドセルが何かに引っ張られた。驚きで息が詰まり、心臓が止まりそうになる。
「なんだ、シュウイチじゃねえか。お前バスケ興味あるのか?良かったらちょっと観てけ」
それはおれが最も苦手な男の声だった。そのままズルズルと体育館の中に引きずり込まれる。
「やめてよ叔父さん。ボク別にバスケなんて・・・」