レイアップ
「なあ、あの時のことまだ怒ってるのか?」
おれは、感情の読みにくいクールな顔に話しかけた。
「なんのこと?」
真っ直ぐ前を向いたまま、ユキが返す。
「去年、誘ってくれただろ?」
「ああ、あれね・・・」
ユキは、どうでも良さげにスタスタと歩く。
去年の夏休み、携帯から聞こえるユキの声はやけに明るかった。
『ねえ、久しぶりに一緒に花火観に行かない?』
その声はセンターラインを飛び越えて、おれの鼓膜に響いた。全然クールじゃない幼い頃のユキと同じ声だ。
『あの橋の上で待ってるから』
そういって、電話は一方的に切れた。おれは、そのまま携帯の電源をオフにした。静かに天上を見上げる。自分の電源も落とすように目をつむった。部屋のエアコンの音だけを聞きながら、おれは眠った。その夏はどうしても花火なんて気分にはなれなかったんだ。
他の男たちが聞いたら怒号が飛んでくるだろう。おれは、ユキからの誘いをすっぽかした。
そして、夏休みが明けた。
おれと、ユキとの関係はただのクラスメイトになっていた。お互いろくに口を聞くこともなく、そのまま卒業を迎えた。
そうして、一人の幼馴染みをおれは失った。