龍泉山の雪山猫
やっと地面に降り立ったと思うと、彼はそっとわたしを草の上の下ろしてくれた。草の上に座り込むわたしの隣に、アオも腰をおろした。

そこは、龍泉山にある神社の敷地内だった。
もうすぐ夕暮れ時。

「ここからなら一人で帰れるだろ?」
草の上に寝転がるアオが目を閉じながら言う。彼はゆっくりと息をする。まるで久しぶりに自分の家に帰ってきたような表情だった。

「うん...。帰れるけど...。」
そう言い始めて、昨日の雪山猫の姿が目に浮かんだ。
夜にしかでてこないはずの雪山猫、どうして昨日はあんな早い時間に?今日も、もしかしたらこの辺をうろついているのかも...。

だまって動かないわたしの方をアオがちらっと見る。

「なんだ、こわいのか?」
「い、いつもだったら怖くないよ!でも、でも、昨日雪山猫がこのぐらいの時間に出てきて...。食べられそうになって...。」
あの真っ赤に光る目を思い出すと寒気がした。
「なんだ、お前あんな猫のことが怖いのか?まあ、あいつは人間の血が好きだからな。しょうがない、飛んで村まで送っていくか?」
アオはそう言って立ち上がり、わたしを抱き上げる。
アオは普段から体温が高いみたい。わたしを抱きしめる腕と胸が熱を帯びたように熱い。細身なのにわたしを軽々持ち上げてしまうのは、やっぱり龍の力だから?
また、顔が熱くなる。それと同時に寒気がした。

アオは飛び立たずにわたしを見つめていた。彼の青い瞳とわたしの目が合う。
「飛ぶのは、いやだ。」
そう言うわたしの声は少しかすれてた。

あれ?どうしてちゃんと声がでないんだろう。それに、頭が重たく感じる。

「お前...。」
アオはそれだけ言って走り出した。彼は木々の間をものすごい早さで駆け抜けていく。夕暮れの風が頬にあたって、わたしは何度か身震いした。


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