龍泉山の雪山猫
村に着くと、人気はほとんどなかった。

「おい、お前の家はどこだ?」

アオの低い声が頭に響く。頭が痛い。
「サチ、聞こえてないのか?」
わたしの名前、覚えていてくれたんだ...。

わたしはぼーっとしながら村の方を見た。目の前がぼやけてよく見えない。

「サチ!!」
聞き覚えのある声がしたと思うと、ジンタの顔が目に入った。あわてて駆け寄る彼の腕に、アオはわたしの体を押し付けた。

「山の中で弱っているのを見つけた。熱を出している。早く助けてあげてくれ。」
アオの声は静かで、でも何か焦っているようだった。

わたし、熱がでてるんだ...。そんなのアオが術でも何でも使って治してくれればいいのに。
そんなことを思っているうちに、だんだんと意識が遠のいていった。わたしを抱きかかえたままジンタが走りだした。ジンタの手...冷たい。アオの腕の中の方が温かかったな。

彼の体温は、もう感じられない...。





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