龍泉山の雪山猫
お見舞い
気づいたら見覚えのある天井を見つめていた。
わたし、家に帰ってきてたんだ...。

家の中は薄暗かった。朝かな。
なんだか夢でも見てたみたい。雪山猫に襲われて、死にそうになって、アオを見つけて、アオを助けて...。
アオ...。今、何してるんだろう。

ため息をついて目を閉じると、温かい手がわたしの額に触れた。

そう、アオの手はこんな温かさだった...。


はっとして目を開くと、青い瞳がわたしを覗き込んでいた。

「アオ!」
わたしの声に、彼はしーっと言って口に人差し指を当てる。
彼が目をやる方を見ると、お母さんが静かに眠っていた。よかった、お母さん、顔色いいみたい。

「すまなかった。」
アオの低い声が小さくわたしの耳元で響いた。熱い息がわたしの耳にかかる。
「今の俺には人間の傷は治せても、病を治すことができない...。」
意地悪なはずのアオの声がとても優しく聞こえた。

「苦しい思いをさせてすまなかった。」
「いいよ。村まで運んできてくれたんだし。すぐ眠っちゃったから苦しかったとかあんまり覚えてないよ。」
わたしが小声で言うと、アオはわたしの額に口付けをした。

「...っ!!」
何も言えずに顔を真っ赤にするわたしに、アオは意地悪そうな顔で笑った。
「少しでも早く元気になるようにしてやっただけだ。」
「もう!」
「そう赤くなるな。もっとからかってやろうか?」
わたしは言い返せないまま布団に潜り込んだ。
「なんだ、つまらんな。せっかくあの心配性の坊主が家に帰っていったのを見計らって会いにきたと言うのに。龍神様がわざわざ見舞いに来たのだ。少しは感謝したらどうだ?」

心配性の坊主って...ジンタのことかな?
そう言えば村に着いた時、ジンタがわたしを呼んでた。でも、それからどうなったのか全然覚えてない。

そんなことを考えながら黙ってると、布団の上からアオがわたしの頭をつついてきた。
「感謝」しないと、また意地悪されそう。

「あ、ありがとうございます...。」

わたしの声にアオはわたしの頭をつつく手を止める。
「気がこもってない。」
そう言って彼はまたわたしの頭をつつき始めた。

そっと布団から顔を出すと、アオが眉間にしわを寄せてわたしを見ていた。
「感謝って、ありがとうじゃだめ?」

わたしの問いに、アオはにやりと笑った。
しまった!
なんか、今の言わなきゃよかった気がする。

「ありがとうだけじゃなあ...。そりゃあ、龍神様が直々に来ているんだからなあ。」
意地悪そうなアオの顔。逃げ出したいけど、その子供っぽい表情から目が離せなかった。これって、こうなること絶対わかってて「感謝」しろとか言ってきたんだ!神様のくせに(人間がそう決めただけだけど)性が悪い。
わたしは何も言えずに彼をにらんだ。

「まあいい。お前が元気になるまで考えておこう。さあ、安め。元気になったら神社に来い。待っているぞ。」

そう言ってアオがわたしの頭に手をおくと、わたしは何も言い返せないまま眠ってしまった。
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