愛してる、愛される。
ドアに背を向け角を曲がる瞬間に ドアが開く音がして あたしは振り返った。少しだけ開いたチェーン越しに 誰かがこっちを見ている。
その隙間を、目を凝らしよくよく覗き込むと、そこにはタクミではない誰か覗いていたのだった。
どうしようか迷ったあげくに、あたしはドアの前まで引き返し、少し開いたドアから中を覗くとそこには弱弱しい女性が居たのだ。そして、その人に「タクミくんは居ますか?」と尋ねてみた。
彼女は何も言わずにパタリとドアを閉めてしまったのだ。
あたしの質問に答える様子もなく、表情ひとつ変えることもなく。
そんな不可解な事に、腹が立った。もしかしたら彼女かもしれない。でも、あたしは鍵を返しに来ただけ。それなのに、あの態度は何!?
しばらくドアを見つめて、いらつくキモチを押し込めてエレベーターに乗った。
家に帰ると、おかあさんが「あら、はやかったじゃない」と笑う。
不機嫌そうに「お財布忘れちゃったの。」と言うと「オッチョコチョイなんだから、お父さんににたのかしら」と笑って言った。
そのまま部屋に戻り、ベットにうつぶせになる。タクミには会えなかった。しかも女が部屋にいた。目を閉じて考えてるうちにそのまま朝になっていたのだった。
タクミからの着信履歴があることに気づかないままで・・・。
< 5 / 7 >

この作品をシェア

pagetop