聖夜に舞い降りた天使

「重症度によって5段階に分けられるが、病院を抜け出す前の彼女の症状はステージ3に入ったところだった。
彼女の家族側の希望もあり、ステージ2までは無治療で自宅にて経過観察をしていたんだが……
ステージ3に入るとATGという免疫抑制療法とネオーラルの併用療法か、白血球の型であるHLAが適合する兄弟姉妹がいれば骨髄移植を行うことになる。アルベールさんには近親者はおらず、保護者であった遠方の親戚である彼女の叔母も適合しなかったため移植は諦めたんだよ」

「…‥骨髄バンクのドナーは?」
「拒絶反応を起こしやすく、早期死亡の頻度が高いので、通常は免疫抑制療法とネオーラル併用療法で効果が見られなかった場合にのみ 非血縁者のドナーからの骨髄移植となるんだ。
だが……彼女は特殊なHLAを持っているため、たとえドナーからの骨髄を受け取れる状況になっても適合するドナーが見つかる可能性は非常に低かった」


「そ、んな……」


「それで……僅かな望みをかけて、本当なら今日から5日間、1日に12時間以上かけてATGの点滴注射を行う予定だったんだが」

「僅かな、望み?」

「あぁ……PNH血球と呼ばれるごく微量の血球がある基準を超える陽性とそうでない場合と比べて、陽性だとATGがかなり効きやすいとされているが……検査の結果、彼女は陰性だった。」


「それを、彼女は?」


「昨日の朝、彼女には俺から直接伝えた。
彼女はステージとしては重症にあたるが、本人の自覚症状はそれほどないのだけが救いだった。
それを伝えた時も彼女は動揺を見せていなかったので、すっかりATGに肯定的だと思っていたのだが……」





(そしてアンジュはその夜、

粉雪が降る中、病院を抜け出した……)










アンジュは……本当は何を思いながら天に掌を翳していたのだろう……










「再生不良性貧血は白血球の減少に伴い、免疫力も低下する……
おそらく、免疫力が低下しているところに寒空の下飛び出して肺炎を患い、その感染症を起こしている場所から血液中に病原体が入り込み、敗血症を起こしたのだろう」
バルト医師はそう言って、俯いた。


突然処置室の扉が開き、その向こう側から看護師が強ばった顔を見せた。





「バルト医師、アルベールさんが敗血症性ショックをおこしています!」



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