聖夜に舞い降りた天使
別れ
隣のベッドで寝ていたお婆さんが誰に話しかけるともなく、話し出す。
「アンジュが急にわけのわからないうわ言を言い出したかと思ったら、苦しみ出してねぇ……
わたしゃ怖くなって急いでナースコール押したんだけども、長い時間誰も来てくれなくて……
看護婦さんが来て、慌ててバルトさん呼びに行ったけんど、それからすぐに……」
僕はふらふらとアンジュのベッドのすぐ傍に行き、膝立ちになると、彼女の手を握った。
(まだ、温かい……)
バルト医師が向かい側からアンジュの死亡確認を始め、酸素マスクを外した。
先程まで苦しんでいたとは思えないほど、
安らかな微笑みさえ浮かべていそうな
まだ頬に赤みのさしている真っ白な彼女の顔を見つめる……
バルト医師が呟く。
「敗血症を起こしてから1時間以内に適切な抗菌薬を投与できていれば、助かる確率はかなり高かったんだが……」
まともな状態で聞いていたら……怒りがこみ上げ、バルト医師を殴りつけていたかもしれない。
一体、誰のせいで敗血症を起こしてから治療までにこんなに時間がかかったんだ、と。
だが僕は……
ただ呆然とアンジュの美しい顔を眺めるだけだった……
何も、考えられなかった…
僕は感情が欠落している。